人生漂流

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野山に毒を撒く国 1080をめぐる論争

7世紀ほど前まではNZには地上を徘徊する哺乳類が存在せず、鳥類の天国であったが、マオリ人が犬やラット、ヨーロッパ人がポッサムやイタチを持ち込んで生態系が大きく変わったことはすでに述べた。(「飛べない鳥」、「孤独の島 ニュージーランド2億年の歴史」)

NZ農林省自然保護局 (Department of Conservation, DOC) はNZ本来の生態系を乱す可能性を持つ外来動物としてシカ deer、野生ヤギ feral goat、ハリネズミ hedgehog、フェレット ferret、カイマナワ・ウマ Kaimanawa horse、ワラビー wallaby、ゴシキセイガイ・インコ rainbow lorikeet、レインボー・トカゲ rainbow lizard、ポッサム possum、ラット rat、オコジョ stoat、イタチ weasel など17種類をあげている。特にポッサム、ラット、フェレット、オコジョ、野生ネコなどの小型哺乳類はキーウィ、タカヘ、モフアを始めNZ特有の鳥を年間2500万羽殺し、絶滅の危機に陥れているとし、撲滅に躍起となっている。

そのために森林や荒野にネズミ取り(写真はPunakaikiで撮ったもの)を置いたり、ポッサムを捕獲して毛皮*として売ることを奨励したりしているが、効果は少ないといわれる。
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DOCが決め手と考えているのは1080(テン・エイティ)と呼ばれる農薬の散布である。1080はモノフルオロ酢酸ナトリウムの通称で、もっぱらNZだけで使われている農薬である(DOCは日本でも使われているというが日本の農水省は認めていない)。天然にもモノフルオロ酢酸ナトリウムを含む植物が40種ほどあり、紅茶にも微量含まれるので、DOCは1080が天然物質であることを強調する。DOCは1080をペレット状にして、鳥が見つけにくい緑色に着色し、かつ鳥がいやがる匂いをつけているので、鳥が食べることはないと主張する。ポッサムやラットがこれを1粒食べれば優に致死量に達する。DOCは1080を空中散布した地域ではそこに棲むポッサムの98%、ラットの90%以上が駆除できると宣伝している。

野山を歩いているとところどころに「ここは毒が撒かれたので注意!」という看板(写真はWikipediaより)があり、ぎょっとすることがある。これは散歩に連れてきた犬が1080を食べないようにとの注意書きである。
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しかしこの1080の使用をめぐっては深刻な論争がある。一部の自然保護活動家たちは、鳥類も1080を食べて死んでいる、1080は主にポッサムが食べて、ラットは好まないのでポッサムと拮抗関係にあるラットはかえって増えてしまう、1080が川に流れ込んで保護すべき動物が水を飲んで死んでしまうなどと1080の使用に反対している。DOCはこういう意見に対し各活動家の名前を挙げて反論するビデオなどを作ってWEB上に公開している。

1080をめぐる論争は先代の人間達が行った行為の所産を処理するのがいかに難しいかを教えている。哺乳類を持ち込んで生態系はすでに変わってしまっており、それを人間が入る前の状態に戻すのは不可能と思える。生態系を乱した最悪の哺乳類は人間だからである。全滅が危惧される鳥たちはなんとか守らなければならないが、莫大な予算と人手がいることは明白である。わずか400万人の人口の国でそれをやろうとしても限界があり、ニュージーランドはそのことで悩み続けなければならない。捕鯨の問題をめぐっても国内でさまざまな論争があり、ニュージーランドの政策は紆余曲折してきた。自然保護に関しては世界の一等国であるニュージーランドは大きなジレンマを抱え続けている。それはニュージーランドだけの問題ではない。1080の問題は「環境を守る」という事業の困難さを象徴している。

* ポッサムの毛で作ったセーターやカーディガンを売っているところがある。テカポ湖の店で見たが、とても軽く暖かそうであった。店の人に聞いたら50%がウールで、50%はポッサムの毛を使っているという。毛皮よりセーターの方が人気だそうだ。ポッサムの飼育場があってそこのポッサムから毛を取る。ただし高価で400ドルくらいするので、結局買わなかった。1匹から取れる毛の量は少ないから、手間がかかるのだろう。いまだにあのセーターはほしかったなと思う。

資料 NZ DOC
http://www.doc.govt.nz/conservation/threats-and-impacts/animal-pests/
(2010/12/6)
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by tochimembow | 2010-12-07 10:30 | モノローグ
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定年退職後、リフレッシュのためニュージーランドを半年間漂流しているうちクライストチャーチ大地震に遭遇。日本に戻ったら、またしても働くことに。 片雲の風にさそはれて漂泊の思ひやまず(芭蕉)


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