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人生漂流

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日本語とマオリ語 英語の難しさを考える

日本語とマオリ語の共通性
クライストチャーチに住む日本人から「日本人が経営する温泉ホテルがマルイアにある」と紹介されたとき、マルイアを聞き間違えて「丸井屋」という屋号のホテルがあると思ってしまいました。ニュージーランドの地名のMaruia、Waikawa(ワイカワ)、Akaroa(アカロア)、Aoraki(アオラキ、マウント・クックのマオリ名)、Takaka(タカカ)、Taranaki(タラナキ)、Otaki(オタキ)、鳥の名前の takahe(タカヘ)などはマオリ語ですが、日本語を聞くような語感があり、ワープロで入力して変換キーを押すと何らかの漢字になってしまいそうです。

アルファベットで表したマオリ語を見るとすぐわかるように日本語もマオリ語も子音(k, s, n, h, m, t など)はかならずその後に母音(a, i, u, e, o)を伴います(母音を伴わない例外的日本語は「ん」と「っ」)。そして「c、f、l(エル)、v」から始まる言葉は日本語にもマオリ語にもありませんが、それはもともとそういう発音がないからです。こういう共通性があるためマオリ Maori の言葉を見るとなんとなく共感を覚えるのです。ハワイやポリネシアの言葉もマオリによく似た構造を持っています。

子音に弱い日本人
そこで我々が英語に接するときの問題ですが、英語は語尾が子音で終わることが多く、我々はそういう発音に慣れていないため、日本人が英語を聞き取りにくいことにつながっています。また日本語は元来「c」、「f」、「l」、「v」などの発音を持たないためそういう発音を聞き慣れていません。ニュージーランド人に私の英語は ”walks” なのか ”walked” なのか聞き取りにくいと言われたことは前に書きました(英語がわかったふりをする)が、これは子音で終わる言葉をうまく発音できないことを示しています。”train”, “sprig” のように子音が2つ以上連続する言葉も日本語にはなく、我々には発音しにくく、聞き取りにくい言葉です。

20年ほど前にネバダ大学の研究者に「今から僕がいう言葉が聞き取れるか?」と言った後で”release” (放出)と口に出したのですが、相手は「わからない」と言いました。舌を丸めて”r” を言い、舌の先端を上歯ぐきにつけて ”l” を言うのですが、何度言っても理解されず、”calcium release”と言ったら、「ああ、そう言いたかったのか」とわかってくれました。一つの言葉に "r" と "l" が混じっているとき(relax, rely など)はよほど注意して発音しないと相手には "rerax" あるいは "lelax" と聞こえているでしょう。我々初心者が英語をなんとか聞き取っているのは子音を正確に聞き取っているのではなく、言葉全体の響きや前後の関係から推測で聞いているのだと思います。”train”, “tree”, “truck”, “trim”, “troll”などは ”tr”の部分よりもその後の部分があるから聞き取れるのでしょう。”tree” はカタカナで書くと「トゥリー」でなんとか原語に近くなりますが、”release” はカタカナで「リリース」で ”r” と ”l” を区別して書けません。このように日本語に子音が少ないことが日本人にとって英語が難しい理由の一つです。

それでは英語を話す人は日本語の子音を全部理解できるかというとそうでもありません。その典型例が私の名前で Katuaki と書いても Katsuaki と書いてもアメリカ人やニュージーランド人は「どう発音するのか?」とかならず聞いてきます。「カチュアキ」とか「カトゥワキ」になったりで、何度か訂正して教えるのですが、今まで一発で正確に言えた人はいません。おそらく「ツ」という発音がうまくできないのと、「u」のあとに「a」がつながると余計混乱するみたいです。中華料理店の名前を英語で表記すると我々は全く読めないことがあります(例 Szechuan 四川)が、それと同じたぐいで、使い慣れない文字列はうまく発音できないのでしょう。

母音も難しい
日本語には母音が頻繁に出るので、それなら日本人は母音が得意かというとそうではないと思います。日本語に母音は5つしかありませんが、英語は「ア」だけで何通りもの発音があります。”a”だけでなく”o”や”u” や"er" も「ア」になります。日本人が英語を母国語とする人に”McDonald”を「マクドナルド」と言っても全く通じません。”hamburger” を後につけると、マクドナルド・ハンバーガーのことかと推測してくれますがハンバーガー・チェインのマクドナルドは正確にはMcDonald'sなので、単語だと「マクーナルズ」のように言い、かつ「ダ」にアクセントを置くと半分くらいの人には通じます。ネイティブ・スピーカーの発音を聞くと「マッーナル」と言っているように聞こえます。ややこしいことに「ハンバーガー」は「ハ」にアクセントを置く人と「バ」にアクセントを置く人に分かれます。マドンナ Madonna も「マドンナ」では通じません。アメリカ人に「歌手のマドンナだ」というと「マッァナのことか?」という答が返ってきます。イギリス人はもう少し「マドンナ」に近く「マッドンナ」という感じです。母音の使い分けは子音以上に難しいと思います。英語圏でも国によって発音が違います。何十年たっても私は母音を正確に使いまわすほどの器量が身につきません。それを戦後の貧弱な英語教育のせいにはしたくありませんが、最近の若い人は小さい頃から英語を聞く環境に慣れていて我々世代よりはよっぽど英語がわかるようになっています。

日本語とマオリ語の相違
日本語とマオリ語は全く同じ構造ではありません。マオリ語では「n(ん)」で始まる言葉(例 Ngawa ンガワ、地名)がありますが、日本語(および英語)には「ん」から始まる言葉はありません。言葉の途中や語尾に「ん」があるときは難なく発音できますが、最初に「ん」があると、息が詰まるように声を出さなければなりません。文法は全く異なります。日本語は主語から始まるのが普通ですが、マオリ語は述語→主語という順になります。

文字を持たなかったマオリ人
ニュージーランドでマオリ人の人口は約13%です。しかしマオリ人はニュージーランドでは先住民族なので、NZの公用語は英語とマオリ語になっています。ですから小学校ではマオリ語は必修科目となっています。マオリ語には文字がないため、アルファベットをあてて文字として表現します。文字を持たない民族だったため、記録がなく、一体彼らがいつニュージーランド島に来たのか、どこから来たのか、どういう歴史を経たのかは口伝から推測するしかありません。

蛇足ながら、一つの民族が固有の文字をもつというのは非常に大事なことと思います。日本人はひらがなやカタカナを創成したし、朝鮮人はハングル文字を創成しました。東南アジアで、タイ文字はありますが、ベトナム文字はありません。ベトナム人は漢字を使っていましたが、現在では漢字は廃止となり、アルファベットを使っています。漢字を当て字にしていただけで、ベトナム民族特有の文字は持っていなかったということです。本来その国の言葉の発音と外国文字の発音は厳密には対応し得ないものなので、その国の言葉を正確に表現するにはやはりそれにあった文字が必要だということです。

こちらに来て会話で苦労して、言葉について考えていたことを書きました。言語学に詳しい人が読むととんでもない誤解だと思われるでしょうが、そのときは指摘してください。
(2011/1/5)
by tochimembow | 2011-01-05 19:23 | 英語苦労話
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片雲の風にさそはれて漂泊の思ひやまず(芭蕉)


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