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人生漂流

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グロービッシュの時代 英語は変わる

ニュージーランド(NZ)英語がアメリカ英語と違う点があることはすでに書きましたが、いろいろなNZ人と話すとNZ英語はイギリス英語とも違うと言います。todayを「トゥダイ」、eightを「アイト」のように発音するのはロンドンの下町英語(コックニー英語)と同じですが、コックニー英語のようにhurricaneを「アリケーン」とは発音せず、「ハリケーン」と言っています。彼らにアメリカ人と話すとき支障はないかと聞くと「自分の英語がアメリカ人にまったく通じないことがあった」とよく言います。しかし彼らは自分の発音が間違っているとは全然思っておらず、アメリカ人の発音は自分たちとは違うものなのだと認識しているだけです。

アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドといった英語国に非英語圏から来た外国人はかなりの多数にのぼりますが、彼らの話すことを聞いていると流暢に英語を話す人は少数です。アジア系の店に行くとほとんど英語が話せない店員がいて、何か聞くと英語ができる人を呼びにいったりします。あれで仕事になるのだろうかと思いますが、英語ができなくて困っているようには見えません。英語を使わずに英語の国で暮らすことに慣れています。

ジャパニーズ・イングリッシュ(Japanglish)、チャイニーズ・イングリッシュ(Chinglish)、スパニッシュ・イングリッシュ(Spainglish)などは今や大手を振って通る国際英語となっています。昔はアメリカ人のように巻き舌で、複数の単語をつなげて話そうと苦労したものですが、そんな話し方ができなくても全く恥じる必要のない時代になってきました。

最近「グロービッシュ」(globish)という言葉が広まっています。これはグローバル(global) とイングリッシュ(English) をブレンドした言葉で、1500語のボキャブラリーで、文法も基本的なものだけを使って、コミュニケーションを図るというものです。IBMの国際市場担当副社長であったネリエール Jean-Paul Nerrière というフランス人がビジネスの世界で外国人同士が話すときの手段として提唱したものですが、それが一般に普及してきました。

ネリエール氏は、英語会話者を分類すると、非英語国の人が非英語国の人と英語で話すのが74%、英語国の人と非英語国の人が話す場合が22%で、英語ネイティブな人同士の会話は4%しかないのであって、非英語国同士の人が使う英語が圧倒的に多いという調査結果を紹介しています。そう事情を見て英語を母国語としない人々が多くのボキャブラリーと複雑な文法を覚えずに使える国際共通語を創成したと説明しています。

英語を母国語とする人にとって英語のグローバル化は歓迎すべきことでしょうか?世界のどこに行っても自分の言葉で通じるというのは便利でしょう。しかし一方、あちこちで英語が多様化し、変形していくと伝統的な英語文化そのものが崩れる危険性もあります。グロービッシュはブロークン英語を広めることになると批判する人もいます。しかしグロービッシュのHPを見る限り、受動態はなるべく使わないようにして、能動態で表現する、一つの文章は15語以内にするなどの指針はあるものの、間違った文法(述語を省くなどの簡略化しすぎた文法)を勧めているわけではありません。語彙にしても私がこの4ヶ月近くで話した英単語は1500語どころか、1000語にもはるかに及ばないのではないかと思います。ですからグロービッシュをマスターしておけば外国で困ることはまず起こらないだろうというのが実感です。グロービッシュが非英語圏の人々の間で一つの規格として定着しても英語の基本は守られると思います。

問題は発音です。正統な英語発音というものはあるのでしょうか。イギリスの知識人はBBC放送で話す英語が正統(クィーンズ・イングリッシュ)だと主張しますが、今や少数にすぎません。英語圏そのもので国によって発音(アクセントもふくめて)が異なってしまっている以上、発音のスタンダードはもはやないと言っていいのではないでしょうか。グロービッシュは発音については具体的なガイドラインを示していません。話すときはストレスを置く場所を間違えずに、できるだけ身振りや絵などを使うということとストレスがないシラブルの母音(schwa シュワ*)を正しく発音するようにと指導しているだけです。経済発展が著しいBRIC(ブラジル、ロシア、インド、中国)はすべて非英語圏(インドは英語を準公用語としているが、日常生活で使われてはいない)でその人口を合わせるとほぼ30億人になります。その人たちが国際政治、経済、文化、学問の分野で英語を共通語として使っているわけですから彼らの発音がネイティブな英語に与える影響は計り知れないものがあります。中国人の三人に一人が英語を話すようになれば、英語をネイティブとする人の数を超えてしまいます。言葉は話す人の数で決まる面があるので、チャイニーズ・イングリッシュが世界を席巻するようになったとき、英語の発音はどのように変わってしまうのでしょう。

参考
http://www.globish.com/ グロービッシュのホームページ。1500語のリストをダウンロードできます。

http://www.bbc.co.uk/worldservice/learningenglish/ イギリスBBC放送の英語eラーニングページ。非常によくできたページです。

* schwa についての説明は「続きを読む」で。
(2011/1/22)



schwaとは? 「あいまい母音」とも言われ、ストレスが置かれていない音節(シラブル)にある母音で、発音記号は[e]をひっくり返したものとなります(ブログでは表示できません)。たとえば vitamin はvitamin (太文字がストレスのある母音、アンダーラインがschwa)で、この中の[a]ははっきり発音しないようにするのがコツです。他の例としては、butter はbutter、emphasize は emphasize、condition は condition のようになります。a cup of tea のように単語が続く場合でも a cup of tea とschwaが入ってきます。schwaがあるところはなるべく短く発音するよう英語発音に関するサイトでは勧めています。ですから standard は standard で、カタカナで「スタンダード」と上に書きましたが、発音に忠実に書くと「スンダド」となるべきです。YouTubeで "schwa" で検索するといくつも発音のサンプルが出てきます。上記のBBCのeラーニング・ページにも発音の仕方が出ています。
http://www.bbc.co.uk/worldservice/learningenglish/grammar/pron/sounds/vowel_short_5.shtml
知ったかぶりを書くのは簡単ですが、実際にやれと言われるとうまくできないのが悲しいところです。
by tochimembow | 2011-01-22 11:28 | 英語苦労話
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片雲の風にさそはれて漂泊の思ひやまず(芭蕉)


by tochimembow
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