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人生漂流

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スティーブ・ジョブズの死を悼む

8月までアップルのCEO を勤めていたスティーブ・ジョブズが亡くなりました。CEOを辞任するときの声明を読んで、余命あと2,3月だろうなとは思っていたので、驚きはしませんでしたが、やはりとても残念です。有名な2005年のスタンフォード大学卒業式での彼のスピーチをYouTubeで聞いたのは彼が死去する2日前でした。なんとなく、彼が死期に近づいているのを感じたからです。
http://www.youtube.com/watch?v=UF8uR6Z6KLc
http://www.youtube.com/watch?v=_jLrLluunHg (日本語字幕入り)
このスピーチはYouTubeで1千万回以上再生されています。彼は三つのエピソードを語っています。一つは彼がリード大学に入学して、わずか半年でドロップアウトしたこと、二つめは自ら創設したアップル社から追い出されたこと、そして2004年に膵臓がんで死の宣告を受けたときのことです。その内容を紹介します。

 私が大学を半年で中退したのは経済的な事情からだったが、それは私の人生で最良の決断であった。そして私は自分が好きなことに集中した。好きなことに夢中になることが将来どう役に立つかはその当時分からなかったが、始めてマッキントッシュを作ったとき、その経験が生きているのに気がついた。若い頃はそれぞれの点が将来どうつながるかわからないものだが、10年後にはそれらの点がつながっているのが見えるのだ。だから今やっているいろいろな点が将来はつながってくることを信じていれば人生は違ったものになってくるだろう。
 また1985年に自分で創ったアップル社から追い出されたことは自分の人生でベストな出来事であった。それはクビになることでそれまでの成功の重圧から解放され、新参者としての軽快さを得て、人生でもっとも創造的な時期を迎えることができたからだ。自分が作った会社をクビなるというのは、ひどく苦い薬を飲むようなものだったが、私には必要な薬だった。


印象深いのは死について語った部分です。これは2004年に彼が膵臓がんであと数ヶ月しか生きられないと医師から宣告されたときの経験に基づいています。
 17歳のときに読んだ「毎日を人生最後の日であると思って生きていれば、いつか大きな人間になることができる。」という言葉をかみしめながら生きている。自分は必ず死ぬということを自覚しておくと人生において重大な決断をするときに助けとなる。他人の期待、プライド、恥や失敗に対する恐れ、これらのすべては死を前にしたときは消えてしまい、自分にとって真に重要なことだけが残る。何かを失うのではと恐れることは落とし穴なのだ。死を前にしたとき、人間は裸である。だから自分の心のままに行動することが重要だ。死にたいと願う人はいない。天国にいきたいと思っている人でも、そのために死のうとは思わない。それでも死は誰もが迎える運命である。それを免れる者はいない。それでいいのだ。なぜなら、死は生命が創りだした最高の発明であるからだ。

最後にこう結んでいます。
 時間は限られている。他の人の人生を追うような生き方で時間を無駄にしてはいけない。ドグマ(教条)の罠にはまってはいけない。ドグマとは他の人が考えたことの結果でしかない。他人の雑音に惑わされずに、自分の内なる声に耳を傾けなさい。なぜか、あなたの心と直感は、すでにあなたがどうなりたいかを知っている。それにしたがって生きなさい。

テレビのニュースで何回も紹介され、朝日の天声人語にも引用された "Stay hungry, stay foolish" (ハングリーであれ、愚かであれ)という言葉は実はジョブズの言葉ではなく、ジョブズが愛読していたスチュアート・ブランドという人の言葉で、スピーチの最後で紹介し、3回この言葉を繰り返しています。

約20年前にマックを買ったときの感激は今でも覚えています。それまでNEC98シリーズのパソコンを使っていましたが、たった9インチしかも白黒の画面のマックに触ったとき、子供が新しいおもちゃ箱を開けたような感激がありました。NECパソコンは急につまらないものになり、ただのビジネス用のマシンとしか思えませんでした。それから約10年、マックにはまって何台もマックを買い換えてきましたが、最後に買ったマックが5分おきにハングアップするというトラブルだらけで、さらに周りの人が皆Windowsパソコンになっていたため、Windowsに変えました。ジョブズがアップルに戻って2、3年後、iMacが出始めた頃でした。その頃800ページもある「アップル」(ジム・カールトン著)という本を読んで、内紛続きのアップルに将来はないと見限りましたし、本に書かれていたジョブズの傲慢ぶりに愛想がつきたことも理由でした。

ジョブズはアップルに復帰したとき、これからはソニーのような会社にしたいといいました。それで出てきたのがウォークマンを手本にしたiPodです。またアップルの最大のライバルは任天堂になるかもしれないと言いました。マイクロソフトはライバルとして眼中になかったのです。ジョブズはアップルをソニーも任天堂も、またマイクロソフトをもはるかにしのぐ会社にしてしまいました。

ジョブズの近くにいた人は、彼が独裁的で、横暴であることに辟易していたと思います。皆が彼のように確固たる信念を持ち、人と妥協せずにいたら世の中はぎくしゃくして、調和が取れなくなるでしょう。私のように凡庸で、人の意見に流されやすい人間が大勢いることで、社会は摩擦が少なくなって、進んでいくというのは古代から変わらないと思います。

スティーブ・ジョブズは天才であり、21世紀の初頭でもっとも魅力的な人物であり、疑いなく時代を引っ張っていく人でした。これからはクラウド・コンピューティングの時代になると言われています。これはクラウド(雲)というサイバー空間にデータ(文書、音楽、本、写真)を置いて、クラウドのアプリケーション(Googleがすでにいくつか提供している)を利用して、我々は世界中のどこにいても携帯端末やタブレット端末を持っていくだけで仕事ができ、音楽を聴き、映画やゲームを楽しみ、本を読めるというものです。アップルはすでにiCloudを持っていますが、ジョブズがこれから先のクラウドについてどう構想を描いていたのかは分かりません。彼は素晴らしい作品と貴重な人生の教訓を残してクラウドの中に昇っていきました。
(2011/10/8)
by tochimembow | 2011-10-08 15:16 | モノローグ
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片雲の風にさそはれて漂泊の思ひやまず(芭蕉)


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